第50回東京都道場少年剣道錬成大会(R3.7.14/15

 全国大会に向けた団体戦及び個人戦が,14日(土)に小学生の部,15日(日)に中学生の部に分けて開催された。

 昨年度はコロナウイルスの影響もあり,ほとんどの大会が中止され,稽古においても約半年間の中止があり,技術の向上や経験といった面で大きく後れを取ってしまった世代の大会となりました。団体戦での整列の所作や試合ルールも正しく理解できていない中で,復活した大会での参加を第一に考え,結果は良くなくても,多くの経験を積んでもらおうと考え試合に臨みました。


14日(土)小学生の部個人戦
 
 小学生の部の個人戦には,男子3名,女子3名の合計6名をエントリーしました。

 Sさんは錬成大会デビュー戦,体も大きく手足も長く良い剣道。ただし気魄が出ない淡々とした剣風で相手との面の相打ちを繰り返していました。時間一杯まで試合を続けていましたが,惜しくも一本負け,相手が動いたところに打突するのではなく,こちらが動かして打突を引き出し,そこに自分の打突を被せれば良い出鼻技となると思います。すべての打突が相打ちとなってしまいました。打突の前の攻めを研究してみてください。

 K君も錬成大会デビュー,器用なタイプではないものの,稽古で自分の課題を一つずつクリアーしていく一生懸命の姿は,いつか一本取って自分に自信を持ってもらいたいと願う選手です。身体も大きくなく,筋力も弱く,出鼻面一本で試合を進めます。あとちょっと,もう少し早くと心で念じ,手に汗かく展開でしたが残り時間わずかで力尽き一本を取られてしまいました。それでも引き上げてきて話を聞くと,「悔しい。」といつもは無口なタイプが,顔にも悔しさを滲ませて,自分はもっとできるんだと言っているように感じ,今の自分を確認することができた貴重な敗戦となりました。きっと次の稽古では自分に妥協しない稽古をしてくれるでしょう。この敗戦が次の勝利につながると期待します。

 R君は,最近返し技を覚えて簡単に勝とうとする悪い剣道が目立っていました。前回の学年別錬成大会でも間合いができているのに先にかけて打突せず,「返して返して」と待ち剣となり,結局は相手に押し切られてしまういやな敗戦でした。今回も前回同様の展開に良いところなし。このままでは良い結果につながらないと思い,午後の団体戦では返し技は禁止し,出鼻技で勝負させることとしました。結果は二本勝ちとなり,もともと持っていた先にかける剣道で,本来の自分の勝ち方を再び呼び戻すこととなりました。

 Iさんは最近剣道に対して気合が入っている選手です。前回の学年別でも強い相手に一本を取りながら惜しい負けとなり,勝負の楽しさや悔しさ,難しさがわかって,今伸び盛りの選手です。一回戦も好調を維持し,出鼻面,面を見せてからの小手など,積極的に試合を展開しての二本勝ち,二回戦もそのままの良い内容の剣道でしたが,ちょっと相手が上でした。しかしながら,この敗戦もまた彼女の上達を促す敗戦となりそうです。試合一回は稽古十回分ということが,この試合でもあてはまるようです。また新たな課題が見つかり,本人がそれを自覚し,研究し克服して稽古し,次に望むといった状況に成長の連鎖が起こっているようです。まだまだ強くなる伸びしろを持った選手であると思います。その心の灯が消えないように,こちらも稽古環境を整え刺激を与えたいと考えています。

 Tさんは最近何となく勝てない,勝ちきれない状況が続いています。都道府県,学年別個人戦,そして今回の大会。もちろん相手の技量もあり,簡単には勝てない相手との対戦が続いていることを考慮しても,何かもやもやした感情に支配されます。決して一本が取れないわけではなく,むしろ一本を先取する展開からの逆転負けや,自分なら勝てるとの手ごたえの中の敗戦がもやもやの原因なのかもしれません。特別に瞬発力があるわけではなく,恵まれた体格でもない,しかし,冷静に分析する頭脳を持ち,理論的に剣道を捉えることができる。何よりも負けん気が強くアスリート向きである。一方,いまだ勝ち上がった経験がないため常に勝負に不安になる。解決法はただ一つ。自分を信じられるように常に試合を意識して追い込んだ稽古ができるかということだと思います。「私が負けるわけないんだ。これだけの稽古をしてきたのだ。」と自信を持って試合に臨めるようにならなければ,今後なかなか結果は出ないのではないでしょうか。
 与えられることをこなすのではなく,自分から求めて一歩進むことができれば必ず扉は開くでしょう。この状況を打開するのは自分自身の心にあると思います。


14日(土)小学生の部団体戦

 一回戦の相手は矢口剣士会です。基本に忠実,それでいてしっかりと一本を取れる技を持っている選手が多い正統派の剣風である印象の道場です。 要成館からは,先鋒をIさん,中堅をK君,大将をTさんと選抜し,強敵に試合を挑みます。

 先鋒のIさんは最近出鼻面に活路を見出し,自信を持って勝負に臨んでいます。今回もその出鼻面を当てて一本を先取して有利に試合を運びます。しかしながら,試合勘がまだなく,引き技を出して場外反則を2回,みすみす相手に流れを渡してしまいます。最後は逆転されてしまい,無念の敗退です。

 一本を取ってからは相手が一本を取り返さなければいけない苦しい状況です。その展開において引き技を打ってくれれば追い込んでの打突のチャンスが生まれ,相手は楽な展開となります。さらに場外に自ら出て2回反則を取られれば,相手は苦も無く同点となり,その後も自由に逆転のチャンスが訪れます。昨年試合に出ていないため,これがデビュー戦となった経験のなさが露見してしまいました。一本勝ちで勝てた試合を落としたことが後に勝敗に大きく響くこととなります。

 中堅のK君は先鋒の負けを帳消しにするために勝つことが前提となります。個人戦での待ち剣の反省から自分から積極的に出鼻で勝負するよう指示を受け,期待に応えての2本勝ち,やはり自分の剣道が攻めの剣道であるということが証明された一戦となりました。

 大将のTさんがいよいよ勝負の試合に臨みます。さすがは相手の大将も良い雰囲気。初太刀に面に行ってそれを裏から摺り上げての面をもらい,敵ながらあっぱれな玄妙な技。その後も打ちつ打たれつの攻防が続くも時間切れ,2対1で敗戦となりました。

 終わってみれば取って取られての大接戦でした。矢口剣士会がその後3回戦ぐらいまで進んでいるのを見て自分たちのレベルが決して低くないことを自覚した試合でした。結局は先鋒戦を落としたことが敗因となりましたが,経験値のない選手の場外反則は攻めることができません。
 引き技の使い方をこの機会に勉強したことは良かったと思いますが,金星を逃し,全国への道を逃したことは残念でした。



15日(日)中学生の部個人戦

 中学生の部個人戦には男子3名,女子3名の合計6名が出場しました。

 Y君は体が大きい相手になかなか苦戦中です。身体が小さいことが自分の長所にならないため,体格差で劣る相手に,正面で足を止めて打ちあってしまい被られて負けてしまいます。足を開き足幅も大きく開いてしまい。左肩を下げてしまう中段の構えでは,良い結果は出ないと思います。そこを調整すれば剣道も大きく変わると思います。

 F君はまだ試合用の打突ができていません。二拍子で打突をしているのでやっていることは基本打ちです。攻め,タメ,フットワークを考えて一拍子で打突することを稽古しなければなりません。今のままでは勝つことはできないでしょう。中学生の剣道にバージョンアップしてください。

 I君は今回やっと自分がしたい剣道ができたようです。あごが出て残心も中途半端であまり格好の良い剣道ではありませんが,今日は別人です。前日の稽古から非常に内容の良い格好のいい剣道をして調整していました。
 元々のスピードはトップクラスで身体能力も高く,中学から剣道を始めたとは思えないスピード感のある剣道をします。一回戦から落ち着いた剣道で二本勝ちし,二回戦は同じ八王子市の道場で名の知れた選手との対戦です。中心を取って電光石火の飛び込み面を炸裂させて早々に一本を先取し,続けざまに面を決め圧巻の二本勝ちでした。

 三回戦は自分よりも身体が大きい選手との対戦です。相手のパワーと自分のスピードの勝負となり見ごたえがありましたが,ここは相手の方の実力が上でした。敗戦してもすがすがしくやり切った顔が印象的でした。

 女子はYさんが飄々として試合を進めています。しかし山場なく敗退してしまいました。感情を出さないことは悪くないのですが,ここぞの勝負をしてほしいと感じる試合でした。

 Kさんも試合経験が少なくほぼデビュー戦です。一本を取るというよりは,まず試合をして自分を出し切ることが課題と思っていました。技術は未熟でも時間をしっかり使っての敗戦は今後につながると思います。一本を取る技が求められます。

 Yさんは八王子市の大会でも少しずつ結果を出してきた選手です。中学から剣道を始めて,小学生から剣道をしている者にどのように対抗したら良いのか,自分自身の剣道をしっかり見つめて勝負の世界の難しさを体験しながら,日々成長してこの日を迎えました。

 中体連の大会では個人でもベスト8レベルに達しており,この日は今までやってきたことの答え合わせとなる試合です。
 相手の選手は非常に強い選手でした。おそらく市内大会であれば決勝に進出するレベルと言っても良いでしょう。引退試合で一勝をあげてほしいのは親心ですが,強い相手に存分に自分の剣道を試すのもまた剣道,今回は後者となりいよいよ試合に臨みます。
 立ち上がりから気負うことなく,きれいな中段の構え,手足も長く身長も高く,スッと立つ姿はとても剣道歴2年の選手に見えません。相手との間合いの攻防から剣先で相手の気を感じお互い無駄のない動き,攻め,間合い,打突の機会とお互いの気が切れない試合展開によくぞここまで成長したと感心することしきり。ややあって試合は一気に動き始めます。相手の捨てきった飛び込み面が機会よくとらえて一本を先取されます。しかしここから二本目すぐに,同じタイミングからの相手の面に対して渾身の返し(すり上げ)面,見事一本を取り返して勝負となります。その後は気の抜けない勝負を続けて緊張感のある展開でした。自分の持てる力を出して堂々と勝負しています。最後は地力に勝る相手に二本目を取られての負けとなりましたが,あっぱれな試合であったと思います。
 勝負では勝ちに行くことが大切です。負けて良い試合などありません。しかし,優勝者以外はどこかで負けていきます。そのため最も大切なことは負け方です。自分の持っている力を出し切り,何が足りて何が足りていないのか。その敗戦から宿題を見つけ,研究して稽古し,克服して次回の試合に臨む,そしてまた負けて,また新たな課題に挑む。この繰り返しが成長へとつながります。
 今日,中学での最後の試合で,素晴らしい剣道を披露できたことは,自分の成長を自分自身が感じることができた貴重な時間であったと思います。結果は負けであるものの,また次につながる内容の試合であったと思います。この素晴らしい経験を次のステージである高校において,つなげてほしいと思います。もし剣道という選択をしてくれたなら,剣道指導者としてこんなに嬉しいことはありません。



15日(日)中学生の部団体戦


 団体戦において中堅でエントリーをしていた選手が体調不良のため,急遽メンバー変更して対戦相手である新小菅と対戦しました。
 先鋒のK君は,個人戦での反省を踏まえて,急遽練習でしていないことをぶっつけ本番で試してみました。本来稽古でしないことは試合でしないのですが,今回は修正する課題が明確になり,本人も理解ができていると判断して,思いきって剣道を変えることにしました。しかし,頭で理論はわかっていても,体で表現することは容易ではなく,どのような結果になるかは分からない状態でしたが,立ち上がりから自分のペースをつかみ,有利に試合を展開していました。また,左肩が開く癖や足幅が広くなる癖も修正され,左半身にしっかりと軸ができて,それまでの剣道が嘘のようなきれいな中段を取っていました。まだまだ改良点があるものの,このまま研究を続けていって良い剣道ではないでしょうか。結果も堂々の一本勝ちで,今まで見てきた試合で一番の内容ではないかと感じました。

 中堅のF君は急遽選手交代で出場の選手です。個人戦での実践レベルの打突ができていない反省点がここでも出てしまい,良いところなく二本負けでした。内容を検討すれば自分の実力や技術的に足りていないことが理解できると思います。今から何をしなければならないのか,次の稽古には整理して臨んでください。

 大将のI君はここでも個人戦の好調を維持し,相手大将に食い下がります。今までなら何となく試合に出て何となく負けていたのですが,今日は強い相手選手にも怯むことなく果敢に攻め込みます。スピードはトップクラス相打ちでも負けていません。経験が勝る相手に対して自分の剣道を貫きます。最後は一本取られたものの見ごたえのある大将戦でした。

 YさんI君,今日出場しなかったHさん,A君,君たちの中学時代に関わることができ,君たちの指導者でよかったと思います。途中で外部指導員を辞め,最後まで中学での指導ができず指揮をとることができませんでしたが,思っている以上の結果を見せてくれました。この中学で剣道をした経験を持って,次のステージへと大きく羽ばたいてください。


 中学3年生4名の皆さんの今後の活躍を期待します。

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